【6】任意後見・成年後見制度


1.成年後見制度とは

 

【成年後見制度とは】

 

成年後見制度とは、ある人(以下「本人」といいます。)の判断能力が十分ではない場合(認知・記憶等に障害のある高齢者・知的障害者・精神障害者など)に、本人を法律的に保護し、支えるための制度です。

 

例えば、本人に預金の解約、福祉サービスを受ける契約の締結、遺産分割の協議、不動産の売買等をする必要があっても、本人に判断能力が全く無ければ、そのような行為はできませんし、判断能力が不十分な場合これを本人だけで行うと、本人にとって不利益な結果を招くおそれがあります。

そのため、本人の判断能力を補うため、本人を補助する人が必要になってきます。

 

このように、判断能力が十分ではない方のために、家庭裁判所が援助者を選び、この援助者が本人のために活動する制度を成年後見制度といいます。

 

【こんな心配をサポート】

 

●今は自分でできていることでも、近い将来できなくなるのではないか心配

 

●認知症高齢者がリフォーム詐欺などの消費者被害にあわないか、本人又は親族の心配

 

●知的障害者の子を残したまま先立つのは心配

 

【成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」があります】

 

■判断能力が低下して、今すぐ支援を受けたい場合

●法定後見制度

判断能力が低下したときに、家庭裁判所に後見人等を選任してもらい、その人に支援してもらいます。

特定の支援者(後見人等の候補者)を同時に申し立てることもできます。

申立て時の判断能力の程度に応じて、後見・保佐・補助の3つの類型があり、支援者をそれぞれ後見人・保佐人・補助人といいます。

 

■将来の判断能力の低下に備えたい場合

●任意後見制度

判断能力があるうちに、支援してもらう人との間で支援の内容を公正証書で契約しておき、判断能力が低下したときに任意後見監督人選任の申立てを行うことによって、速やかに支援してもらえます。

任意後見監督人が選ばれるまでの支援者を任意後見受任者、選ばれてからは任意後見人といいます。

 

【成年後見に関する費用】

 

■法定後見

●申立時に要する費用(収入印紙800円、登記印紙4,000円、郵便切手4,300円、鑑定料約10万円 、その他診断書、戸籍謄本・住民票等の取得に必要な費用)

●後見人等に支払う報酬(家庭裁判所が決定した額)

 

※詳細につきましては、管轄の家庭裁判所にお問い合わせ下さい。

 

■任意後見

●任意後見契約の締結時(契約書(公正証書)作成料、公証人に支払う手数料、登記手数料)

●任意後見監督人選任の申立て時(収入印紙800円、登記印紙2,000円、郵便切手2,980円)

●後見人等に支払う報酬(契約で定めた額+任意後見監督人への報酬)

 


2.後見・保佐・補助とは

 

【成年後見制度の種類と内容】

 

■法定後見

 

(1)後見

 

●対象者(判断能力の程度)

判断能力を欠く常況にある方→日常的に必要な買い物も自分ではできず、誰かに代わってやってもらう必要がある人

 

●裁判所に申立できる人

本人・配偶者・四親等内の親族等(親族等の申立人がいないときは市区町村長)

 

●申立の本人の同意

不要

 

●支援する人

成年後見人

 

●後見人等への報酬

本人の支払い能力に応じて裁判所が決定

 

●支援者の同意権・取消権

本人の法律行為全てを取り消しできる

日用品の買い物等は取り消しできない

同意権・取消権を与えるには本人の同意は不要

 

●支援者の代理権

全ての法律行為

本人の同意は不要 

 

●後見監督人

必要と判断すれば、家庭裁判所が選任

 

(2)保佐

 

●対象者(判断能力の程度)

判断能力が著しく不十分な方→日常的に必要な買い物程度は自分でできるが、不動産、自動車の売買や自宅の増改築、金銭の貸し借り等、重要な財産行為は自分ではできない人

 

●裁判所に申立できる人

本人・配偶者・四親等内の親族等(親族等の申立人がいないときは市区町村長)

 

●申立の本人の同意

不要

 

●支援する人

保佐人

 

●後見人等への報酬

本人の支払い能力に応じて裁判所が決定

 

●支援者の同意権・取消権

民法13条1項各号所定の行為

日用品の買い物等は取り消しできない

同意権・取消権を与えるには本人の同意は不要

 

●支援者の代理権

申立の範囲内で家庭裁判所が定める「特定の法律行為」

本人の同意が必要 

 

●後見監督人

必要と判断すれば、家庭裁判所が選任

 

(3)補助

 

●対象者(判断能力の程度)

判断能力が不十分な方→重要な財産行為でも、自分でできるかもしれないが、不安なので本人の利益を守るには誰かにやってもらった方がよい人

 

●裁判所に申立できる人

本人・配偶者・四親等内の親族等(親族等の申立人がいないときは市区町村長)

 

●申立の本人の同意

必要

 

●支援する人

補助人

 

●後見人等への報酬

本人の支払い能力に応じて裁判所が決定

 

●支援者の同意権・取消権

申立の範囲内で家庭裁判所が定める「特定の法律行為」

日用品の買い物等は取り消しできない

本人の同意が必要

 

●支援者の代理権

申立の範囲内で家庭裁判所が定める「特定の法律行為」

本人の同意が必要 

 

●後見監督人

必要と判断すれば、家庭裁判所が選任

 

■任意後見

 

●対象者(判断能力の程度)

現在の判断能力に問題はないが、将来に備えて契約する方

 

●裁判所に申立できる人

本人・配偶者・四親等内の親族、任意後見受任者

 

●支援する人

任意後見人

 

●後見人等への報酬

契約で定めた額

 

●支援者の同意権・取消権・代理権

契約で定めた事項についての同意権・代理権(任意後見人には取消権はない)

 

●後見監督人

必ず選任

 

【後見とは】

 

後見とは、本人の判断能力が全くない場合になされるものであり、後見開始の審判とともに、本人(「被後見人」といいます。)を援助する人として後見人が選任されます。

 

後見人は、日常生活に関する行為を除く全ての法律行為を本人に代わってしたり(代理権)、取り消したりすることができます(取消権)。

後見人は、本人の財産をきちんと管理し、本人が日常生活に困らないよう十分に配慮していかなければなりません。

 

このように、後見人は、申立てのきっかけとなったこと(遺産分割協議、預金引き出し、保険金の受け取り等)だけをすればよいものではなく、本人のために活動する義務を広く負います。

これは通常の場合、本人の病状が回復するか、亡くなるまで続きます。

 

後見が開始すると、本人は、選挙権を失ったり、自治体によっては印鑑登録を抹消されます。

さらに、医師、税理士などの資格や会社役員の地位も失います。

 

【保佐とは】

 

保佐とは、本人の判断能力が、著しく不十分な場合になされるものであり、保佐開始の審判とともに、本人(「被保佐人」といいます。)を援助する人として保佐人が選任されます。

 

保佐開始の審判を受けた本人は、一定の重要な行為(金銭の貸借、不動産及び自動車等の売買、自宅の増改築等)を、単独で行うことができなくなります(保佐人の同意が必要)。

※保佐人の同意を得ずにした行為は、保佐人や本人によって取り消すことができます。

 

このように、保佐人は、本人の利益を害するものでないか注意しながら、本人がしようとすることに同意したり(同意権)、本人が既にしてしまったことを取り消す(取消権)ことを通して本人を援助していきます。

 

また、保佐人は、特定の事項について本人に代わって契約を結ぶ等の行為(代理権)をすることもできます。

保佐人の権限として代理権を付け加えたい場合は、保佐開始の申立てのほかに、別途、「代理権付与の申立て」が必要です。

どのような行為について代理権が必要なのかをよく検討し、申し立てる必要があります。

また、保佐人に代理権を付与する場合には、本人の同意が必要です。

 

保佐が開始すると、本人は、医師、税理士などの資格や会社役員の地位も失います。

 

【補助とは】

 

補助とは、本人の判断能力が不十分な場合になされるものであり、補助開始の審判とともに、本人(被補助人」といいます)を援助する人として補助人が選任されます。

補助人は、本人が望む一定の事項について保佐人と同様の活動(同意、取消し、代理)をすることで、本人を援助していきます。

 

補助開始の審判を申し立てる場合は、必ず、その申立てと一緒に、同意権や代理権の範囲を定める申立て(「同意権付与の申立て」「代理権付与の申立て」)をしなければなりません。

どのような行為について同意権や代理権が必要なのかをよく検討し、申し立てる必要があります。

 

また、補助開始の審判をし、補助人に同意権及び代理権を付与するためには、本人の同意が必要です。

 

※同意権

本人が重要な財産行為等を行う際に、保佐人等がその内容が本人に不利益でないか検討して、問題がない場合に同意する権限をいいます。

 

※取消権

本人が保佐人等の同意を得ないで重要な財産行為等を行った場合、保佐人等がその行為を無効なものとして、原状に戻す権限をいいます。

 

※代理権

本人に代わって、本人のために取引や契約等を行う権限をいいます。

 


3.申立て手続きについて

 

【申立て手続きの流れ】

 

■申立ての準備

必要書類等を準備します。

■家庭裁判所に申立て

管轄の家庭裁判所に書類を持参します。

■調査・鑑定

申立人・候補者・本人の調査、親族への照会、主治医による鑑定

■後見・保佐・補助開始の審判

後見人・保佐人・補助人に審判が告知されてから2週間

■審判の確定

この時点で正式な後見人・保佐人・補助人になります。

■後見登記

東京法務局で後見登記がされます。

審判から1か月程度かかります。

■財産目録の作成、裁判所への提出

■後見・保佐・補助監督の開始

 

【申立ての準備】

 

(1)申立てをする裁判所

 

本人の住所地(原則本人が住民登録している場所)を管轄する家庭裁判所

 

(2)申立てができる人

 

申立てができる人は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人等、市町村長、検察官です。

 

(3)申立てに必要な書類

 

管轄の家庭裁判所にお問い合わせ下さい。

 

【誰を候補者にするか・誰が選任されるか】

 

(1)後見人等の候補者については、本人のご家族でなくても構いませんが、成年後見制度の内容や後見人等の職務や責任ついて理解している方を候補者として挙げる必要があります。

 

(2)家庭裁判所は、後見人等の選任にあたり、①本人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、②候補者の職業・経歴、③候補者と本人との利害関係の有無、④本人の意向等を踏まえて、総合的な判断をします。

 

そのため、申立書に記載された候補者が必ず選任されるとは限りません。

 

家庭裁判所は、本人に高額の財産があったり、家族間で療養看護や財産管理の方針に大きな食い違いがあるような場合には、弁護士・司法書士又は社会福祉士等の専門家を第三者後見人等や後見監督人として選任することがあります。

 

(3)後見人等に対する報酬は、家庭裁判所が公正な立場から金額を決定した上で、本人の財産の中から支払われます。

 

【調査・鑑定】

 

(1)申立人、後見人等候補者調査

 

申立日当日に面接をする場合と、申立後に別途面接をする場合があります。

※各裁判所によって異なります。

 

(2)鑑定

 

鑑定とは、本人の判断能力がどの程度あるかを医学的に判定するための手続きです。

 

申立時に提出する成年後見用診断書とは別に、家庭裁判所が医師に鑑定依頼をする形で行われます。

 

鑑定手続きは、後見開始及び保佐開始の手続きでは必ず行われる手続きです。

 

※ただし、本人がいわゆる植物状態にあるような場合には鑑定が行われないこともあります。

 

(3)親族への照会

 

家庭裁判所は、本人の親族に対して、書面等により、申立ての概要及び後見人等の候補者名を伝え、これらに関する意向の確認をします。

 

(4)本人調査

 

成年後見制度では、本人の意思を尊重するため、申立ての内容について本人の陳述を聴取することが必要です。

 

保佐開始や、補助開始で代理権をつける場合は、本人の同意が必要となりますので、同意の確認も本人調査の中で行われます。

 

 


4.後見人等の職務

【後見人の主な職務】

 

後見人に選任された方は、最初の仕事として、本人の財産調査を行い、その財産目録を作成し、家庭裁判所に提出しなければなりません。

 

後見人の主な職務は、本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら、必要な代理行為を行い、財産を適正に管理していくことです。

 

具体的には、本人に代わって預貯金に関する取引、治療や介護に関する契約の締結等、必要な法律行為を行うとともに、本人の財産が他人のものと混ざらないようにする、通帳や証書類を保管する、収支計画を立てる等の財産管理をします。

 

そして、それらの内容がわかるように記録しておくとともに、定期的に家庭裁判所に報告し、家庭裁判所の監督(これを「後見監督」といいます)を受けらければなりません。

※監督人が選任された場合は、監督人の監督を受けます。

 

後見人の職務は、日常の細々とした金銭の出納から、財産の処分、療養契約(施設入所契約や介護契約)の締結、本人の身上監護に至るまで多岐にわたります。

 

そのため、一定の労力及び時間が必要であり、法律や福祉医療に関する知識が要求される場合もあります。

 

【保佐人の主な職務】

 

保佐人の主な職務は、家庭裁判所の監督の下で、本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら、本人に対し適切に同意を与えたり、本人に不利益な行為を取り消したり、認められた範囲で代理権を行使したりすることです。

 

保佐人は、本人が重要な財産行為を行う際に同意することや、本人が保佐人の同意を得ないで重要な財産行為をした場合にはこれを取り消すことができます。

 

また、保佐人は代理権が認められた範囲で本人の財産を管理します。

 

なお、保佐人が代理権を得るためには、別途申立てが必要です。

 

【補助人の主な職務】

 

補助人の主な職務は、家庭裁判所の監督の下で、本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら、認められた範囲で、本人に対し適切に同意を与えたり、本人に不利益な行為を取り消したり、代理権を行使したりすることです。

 

補助人は代理権が認められた範囲で本人の財産を管理します。

 

なお、補助人が同意権・代理権を得るためには、別途申立てが必要です。

 

【後見・保佐・補助の監督】

 

(1)監督とは

 

家庭裁判所は、後見人等に対して、その職務を正しく行っているか、また、後見等の事務を行う上で問題がないかを確認するため、定期的に照会をし、それに対して回答をしてもらうなどの形で監督を行います。

 

そして、本人の現状や現在の問題等についての報告書、本人の財産目録、その裏付けとなる通帳や領収書類などのコピーを提出します。

 

そのため、後見人等は、日頃から領収書や取引に関する書類をきちんと保管するとともに、収支状況を把握しておく必要があります。

 

(2)後見人等の責任について

 

後見人等が不適切な後見等事務を行うと、その原状回復を求められたり、内容によっては解任され、あるいは業務上横領罪等の刑事責任を問われることもあります。

 

(3)家庭裁判所の許可が必要な場合

 

後見人等が次の行為をする場合は、事前に家庭裁判所の許可が必要となります。

 

①後見人等が本人の居住用不動産について、売却、賃貸借、抵当権の設定、解体等をする場合

 

②本人と後見人等がいずれも相続人である場合に遺産分割協議をする場合や、後見人等が本人所有不動産を買い取る場合など、本人と後見人等の間で利益が堂産する場合

 

③後見人等が本人の財産から一定の報酬をもらう場合

 

※このほかの場合でも、重要な財産を処分したり、その行為が本人の利益になるかどうかが不明の場合は、事前に家庭裁判所にご相談下さい。

 

(4)後見等事務の終期について

 

後見等事務は、本人が死亡したり、本人の病状が回復し、後見等開始の審判が取り消されたり、後見人等が辞めたりした時まで続きます。

 

本人が死亡した場合には、後見人等は、2か月以内に管理していた財産の収支を計算し、その現状を家庭裁判所に報告の上、管理していた財産を本人の相続人に引き継がなければなりません。

 

本人の病状が回復した場合は、裁判所で後見等開始の審判を取り消すことにより、後見等が終了します。

 

その場合は、後見人等は、本人死亡の場合と同様に、2か月以内に管理財産を計算し、家庭裁判所に報告の上、本人に引き継ぎます。

 

また、後見人等は、病気などやむを得ない事情がある場合は、家庭裁判所に辞任の申立てをし、その許可を得て、辞任することができます。

 

 

辞任が許可され、新たな後見人等が選任された場合には、事務の引継ぎを行うことになります。